パンはなくとも薔薇を求める

お金がないけど豊かな暮らし

2022年に読んだ本ベスト10

(順不同...というか読んだ順)

 

1. フラニーとズーイ

村上春樹の文体のおかげなのか、最初はフーンこんなかんじねー、はいはい、という感

じで読み進めているうちに沼にハマッているような感じ。読み終わったときには「これ...めちゃ良かったな...」と思えていた。

岡崎京子さん、「うたかたの日々」を漫画化していたけどこの作品もそれこそ彼女が漫画版やるとハマりそうな雰囲気がある。

 

 

2. テヘランでロリータを読む

和訳はこれまで単行本のみで入手困難だったこともあり英語版を買ってちまちま読んでいた本。満を持して手にとりやすい文庫本で登場したのをラッキーに邦訳を一気読み。(英語だと読めるっちゃ読めるけどやっぱり細かいニュアンスが拾えないしめちゃくちゃ時間がかかるので亀のような歩みでした...)

もともとはブックガイドとして、面白い本と解釈を探すつもりで読んでいたのだけど、ある本と自分の体験とを結び、しっかり自分のものとしていることに心をうたれた。私もそのように(この平和で脅威の少ない社会にいる自分が「彼女たちのように」というのは抵抗があるが)、こうやって読んでいく本たちを自分の血肉としていければよいなと思う。

 

また、私もずっと悩んでいたこと。主題やそこに書かれている内容をひどく嫌悪しつつも、その本はどうしようもなく好きだ、という葛藤に対して、ナフィーシーはとてもすぐれたひとつの答えを示してくれているので引用する。

あらゆる優れた芸術作品は祝福であり、人生における裏切り、恐怖、不義に対する抵抗の行為である。

(中略)

形式の美と完璧が、主題の醜悪と陳腐に反逆する。だからこそ私たちは『ボヴァリー夫人』を愛してエンマのために涙を流し、無作法で空想的で反抗的な孤児のヒロインのために胸を傷めつつ『ロリータ』をむさぼり読むのだ。

 

 

3. 1973年のピンボール(再読)

ちょっと村上春樹が多いけど、勘弁してほしい。私は春樹がけっこう好きなのだ...。

とくに、この「1973年のピンボール」と前作「風の歌を聴け」はとても良いですね。私は、たとえば「ノルウェイの森」や「羊をめぐる冒険」を読んで「うぇ、ぺっぺっ、好きじゃねえや」と思った人にこそ、この二作品を読んでほしいですね。春樹が嫌いかどうかはこの二作を読んでから決めても遅くないと思う。

猫の手を潰す必要なんて何処にもない。とてもおとなしい猫だし、悪いことなんて何もしやしないんだ。それに猫の手を潰したからって誰が得するわけでもない。無意味だし、ひどすぎる。でもね、世の中にはそんな風な理由もない悪意が山とあるんだよ。あたしにも理解できない、あんたにも理解できない。でもそれは確かに存在しているんだ。取り囲まれてるって言ったっていいかもしれないね。

こういうことです。

そういう、「無意味でひどいこと」が溢れている世界で、どう生きるかということ。

 

 

4. スタイルズ荘の怪事件

この本がベストに入ってくることには、私がこれを読んだシチュエーションも大きく関係している。

私の地元はとてものどかな、とても緑あふれた、ちょっとした山なんかもあるいわゆる田舎なのだけど。その田舎にある、ある友達に言わせればまるで「シルバニアファミリーの家」みたいな元自分の家...今は両親が二人で暮らしているおうちのウッドデッキに座り、晩夏の空気の中で手にとった。

クリスティの描く世界、空気感は、こういうちょっとした田舎で読むのがとても似合うと思う。物語の世界にどっぷり浸かるような気持ちで読み進めていった。


19世紀終わり~20世紀初頭のイギリスの空気感と、魅力的な登場人物の織りなす人間模様が楽しい。

 

 

5.  黒猫/モルグ街の殺人(光文社古典新訳文庫)

短編集。「アモンティリヤードの樽」と「ウィリアム・ウィルソン」がゴシックな雰囲気でお気に入りです。

 

 

6. ガールズレビュー ステイ

突然傾向を変えてきたな!? とお思いでしょうか。

そうです、ちょうど昨年(2022年)の12月に、ずっと読みたいと思っていた「大人だって読みたい、少女小説ガイド」をついに読んでですね。そのガイドに載っていた中でちょっとでもピンときたものを読みあさっているのですが、この「ガールズレビュー ステイ」はそのうちでも特にツボでした。

一応ジャンルとしてはミステリのはずなので、2022年はなんとなく流れとしては下半期になって突如ミステリづいてきた感じですね。

ミステリなのはそれはそうなのですが、この作品はちょっと味つけが普通とは違っている。結末のどんでん返しはすさまじい。ものすごいスケールで裏社会というのか、陰謀的な流れにつきすすんでいく(陰謀論系ではないので安心してください)。伝奇にもちょっと雰囲気は近いのかもしれない。あまり読んだことないから分からないけど。

 

 

7. ルピナス探偵団の当惑

こちらも同上の「少女小説ガイド」からピックアップした作品。ホワイダニット系のミステリ。

独特の台詞回しやかけ合いが楽しい。だけじゃなく、特にエピソード3の「大女優の右手」では結末に「やられた!!!」も持ってきてくれており、ミステリの醍醐味である"驚き"を存分に味わうことができました。

巷では「憂愁」が人気なのかなあとなんとなく見ていると感じますが、私は圧倒的に「当惑」派ですね。

津原氏の訃報で、続きが読めなくなってしまったのがとても残念です。

 

 

 

番外編・マンガベスト

本は結局お気に入りを10冊は挙げることができず。まあそもそも読んでいる冊数があまりに少ないので仕方がない。わりと2022年は、映画を見るほうに力を入れていた気がします。(次の記事で映画ベスト10をやろうと思っていますが、そっちは15作あり)

少々ながらマンガも読んだので、おまけとしてマンガベスト4をば。(読んだ順です)

 

1. きみはペット

ちょうど私生活でもいろいろあって、いわゆる「恋愛」ではないけれど一対一の特別な関係を描いた作品ってなんかないかなあ...と探していたときに出会った作品。なるほど、ペットか! そういうテがあったか 笑

 

と、まあちょっとイロモノっぽいタイトルではあるんですけど、この時代だと (というかいまでも一般的な場合そうなんでうかね) 「恋人」 だとどうしても女が合わせざるを得ない。対等でない関係を受け入れざるを得ない。そういう側面ってやっぱりあると思っているんですが。そういうところから「ペット」 というあらたな(?)関係性が生まれてくるのです。

「女が従属するって関係はちょっとなあ。もう少し違った男女関係が見たいな」と思っている方にとてもおすすめです。

 

 

2. まじめな会社員

はい、出ました、ドーン。個人的にはこれがベストオブベストでもいいです。(番外なのに)

「やっぱり何者にもなれなかったお前たちに告げる」ですよ。

なんとなく好きな「趣味」はあるけど、仕事にするほどの覚悟はないし。そうやって「これだ」 ってものがないから悩んでいる。でもいまあるものに満足はしてない...。そういう主人公が、東京で燻ったりコロナでてんやわんやになったり、地元に戻ってみたり、そういう紆余曲折をへて、「それでもなんとか、やっていく」。そういう話です。

 

 

3. 宝石の国

まだ連載終了していないので「読んだ!!」と言ってしまっていいのかはちょっとあれなのですが。

こういう雰囲気、私は好きですね...(もう3年も前から「好きそう」とは言われていたものの、なかなか読めていなかった...A美さん、やっぱり私これ好きでしたよ)

誰か一人に感情移入しながら読むというよりは、ある一つの世界、箱庭をじーっと眺めている感覚。

 

 

4. ひとつば

パッと見恋愛漫画っぽく見えますかね。ちがいます。これは、「業」の話です!!! 

一巻第一話、これがもう全てですね!!

みなさんは、「ひとつばな」 という花を知っていますか? それは人によって、夢だったり、単純に「好きなもの」だったり、様々ですが...一旦それが咲いてしまうと、地位も名誉も、常識すら捨て去って、その花を追い続けてしまう..."呪いの花"と呼ばれています。

ある一つの夢、欲望、理想、そういったものにとりつかれたキャラクターを愛している方はぜひ。(ボンドルドとかね...宇佐美時重とかね...マユリとかね...(私の推したち

 

 

総括

全体的に、今年はあんまり本は読まなかったなあという印象。漫画もそんなに読んでない。いや、もともと小さいころちょっと読んでいたからなんとなく読書が好きだなあというアイデンティティがあるだけで、読書量はそんなに多くない方だったんですよね。2023年が異常な勢いってだけで...
前半は今まで読んでいた作家や作品をさらっていた感じで、後半は突如ミステリに目覚めました。今もそのままミステリを読みまくってます。

漫画を含めるとベストオブベストはやっぱり「まじめな会社員」でした。私には珍しく連載をずっと追っていたのもあり、時代をよく投影している作品でもあるため、まさに「2022年読んだ!!」という印象です。

さて、今年もまた良い本に出会えるといいな。2023年ベストは、月一作品くらい出てくるとなんとなく嬉しい。という目標でまくまく読んでいきます。